
北極を中心に地球を開くと、アラスカ、カナダの島々、グリーンランドの周縁、スヴァールバル諸島が、一つの海を囲んで現れる。白く見える氷河は、冬の雪を蓄え、夏に水を送り出してきた場所だ。その白い風景を、形だけでなく、どれほどの氷を蓄えているかという「重さ」から見直してみる。
2026年9月17日に公表されたWMOの報告によると、2025水文年の世界の氷河の質量損失は408±132ギガトンだった。主要な氷河地域すべてで純減となる年が4年続いた。今回の映像は、それ以前の2000〜2023年の記録をたどる。新しい報告が届く今、その変化が積み重なってきた時間を、年ごとに見ていく。 [1]

2000年初め〜2023年末の8地域の累積質量変化。1 Gt=10億トン。白は固定の氷河分布。
雪が積もる量と、氷が失われる量
氷河の一年には、雪が加わる時間と、雪や氷が失われる時間がある。表面が融けて水になるほか、海に接する氷河では、先端から氷が崩れ落ちることもある。入ってくる量と出ていく量の収支が、氷河の質量変化になる。ある冬に雪が多くても、その後に失う量がさらに大きければ、一年の終わりには蓄えが減る。 [2]氷河は動いているため、先端の位置だけから全体の収支を読み取ることは難しい。大きな白い輪郭が残っていても、表面が薄くなることで質量は失われうる。風景としての後退と、水の蓄えとしての減少は重なり合うが、同じ測り方ではない。毎年の重さを比べると、写真の一枚だけでは見えにくい変化が現れる。 [2]
1ギガトン(Gt)は10億トン。今回取り上げる北極圏と周辺の8地域を合わせると、2000年初めから2023年末までの累積変化は約−4,561 Gtになる。アラスカ、カナダ北極圏の北部と南部、グリーンランド周縁、アイスランド、スヴァールバル、スカンジナビア、ロシア北極圏の地域値を足したものだ。グリーンランドの大きな氷床本体は、この氷河の集計に含まれない。 [3]
一年ごとの揺れの下に、長い減少がある
年を進めると、数字はどの地域でも同じ速さでは動かない。アラスカでは2000年の年間収支は約+46 Gtだったが、2000〜2023年の累積では約−1,474 Gtになった。一年だけを切り取った姿と、何年もの収支を重ねた姿は異なる。雪と融解の年ごとの揺れがあっても、長い時間の中で失われた蓄えは積み上がっていく。 [3]同じ期間の累積損失は、グリーンランド周縁で約850 Gt、カナダ北極圏北部で約730 Gt、スヴァールバルで約331 Gtだった。大きな質量損失には、氷河が広い面積に分布することも関わる。絶対量の大きさだけを見て、その場所の氷河が何割失われたかまで決めることはできない。それでも、どの地域からどれほどの氷が失われたかを同じ単位で並べることで、北の海を囲む変化の規模がわかる。 [3]
同じ期間の差を一度に示す図では、減少が途中のどの時期に進んだかは見えにくい。年ごとの系列には、結果に至る過程を確かめる意味がある。一年の増加を見て長期の減少が終わったと考えたり、一年の大きな損失をそのまま次の年へ延ばしたりせず、前後の年と並べて読む。時間軸を持つ地図は、そのための足場になる。
さらに、地域の重さを、そのまま一つの氷河の姿に置き換えることもできない。同じ地域にある氷河でも、標高や降雪、海へ接するかどうかなど、置かれた条件が異なる。広い範囲の収支を測る目と、個々の氷河へ近づく目。その間を往復することが、数字を単純な風景の説明に閉じ込めないために必要になる。 [2]
氷の上に立つ人と、宇宙から見る人
米国ワシントン州のサウス・カスケード氷河では、1958年から観測が続けられてきた。氷に設けた杭の周りで、積もった雪や表面の高さの変化を測る。これは今回の北極圏8地域の外にある観測地だが、氷河を長く測るという仕事を具体的に伝えている。現場に戻り、前の年と比べられる記録を残す。その繰り返しが、長い変化を読めるようにする。 [4]
米国ワシントン州、サウス・カスケード氷河で観測を記録する研究者。北極圏8地域外の観測例。USGS、Public Domain。公開日2020年10月6日、撮影日不明。 出典
北極圏でも、同じような継続がある。ノルウェー極地研究所は、スヴァールバルの氷河で、冬の積雪と夏の融解を測り、年間の質量収支を求めている。アウストフォナでの現場観測は、衛星による測定を確かめる役割も持つ。上空から広く見る目と、氷の上で細部を測る手は、別々の競争相手ではなく、互いの読み取りを支える。 [5]
今回使うGlaMBIEは、こうした現地観測に加え、光学、レーダー、レーザー、重力観測の衛星データなどを統合した研究だ。35の研究チームから集めた233件の地域別推定を比較し、2000〜2023年の年ごとの系列をつくった。一つの計器で地球の氷を量ったのではない。異なる方法で見えていた変化を、比較できる記録へつなぐ人々の仕事がある。 [6]
フィヨルドでは、融けた水が海の働きを変える
スヴァールバルのコングスフィヨルドでは、氷河の融け水が海へ流れ込む。海中の氷河前面から出る軽い淡水は上昇し、周りの深い海水を巻き上げる。その水が栄養塩や動物プランクトンを表面へ運び、海鳥や魚などが餌を得る場所をつくることがある。氷河は海の外に置かれた氷の貯蔵庫ではなく、海の循環にも関わっている。 [7]一方、融け水が運ぶ細かな土砂は水を濁らせ、光の届き方を変える。氷河の先端が海から陸へ退けば、深い水を巻き上げる条件も変わる。融ける量が増えることを、生態系にとって一律によい、あるいは悪いと説明することはできない。ノルウェー極地研究所などの研究者は、こうした変化が漁業や観光に関わる沿岸の生態系へどう及ぶかを調べている。 [7]
海鳥が集まる場所、濁りのある水、海岸へ向かう船。氷河の質量を示す数字の先には、こうした異なる風景が続いている。失われた氷の量を知ることから、どこへ水が出て、どの働きが変わるのかを考えることへ。北極を囲む地図を近づけて見ると、地球規模の変化が、個別の入り江の問題として現れる。
アラスカでは、氷の変化が家の近くまで届く
氷河に近い暮らしでは、水の蓄え方と出方が直接の問題になる。アラスカ州ジュノーのメンデンホール谷では、2024年8月5〜6日、氷にせき止められていた水が流出し、洪水が発生した。米国国立気象局は、この氷河湖決壊洪水を記録している。ゆっくり変わる氷の風景に、短い時間で水が流れ出す出来事が重なる。 [8]地域全体の年ごとの質量収支は、個別の洪水の発生日を知らせる情報ではない。暮らしに近い危険を知るには、水位や氷河湖の状態を、その場所で見続ける必要がある。広域を見渡すデータと現地の監視は、時間と空間の尺度が違う。その両方を持つことで、遠い氷の変化を、住む場所について考える情報へ近づけられる。
北の海から、遠くの海岸へ
GlaMBIEによると、世界の氷河は2000〜2023年に約6,542 Gtの氷を失い、世界平均の海面を約18mm押し上げた。海に浮かぶ海氷とは異なり、陸に蓄えられていた氷の減少は、海へ新たに水を加える。北極圏の近くに住まなくても、沿岸で暮らす人々は、この水の移動から切り離されていない。 [6]20秒の映像で、一年が次の一年へ移る。画面の白い場所を静止した風景として眺めていた視線が、雪を蓄え、水を送り出し続ける場所へ変わっていく。残る氷を測ることは、失われた景色を数えるだけではない。これからのフィヨルド、川、海岸で、人々が何を確かめながら暮らすのかを考えることでもある。
データと表現
19地域×24年のGlaMBIE質量変化を使用。地域の和と全球値を照合。数値は選択年までの年間変化の累積です。地形等高線はETOPO 2022の固定標高。氷河分布はRGI 7.0の固定記録です。地域名は代表位置に置き、離れた氷河を含む地域もあります。
スイス3氷河の実輪郭比較は「表示」から参照できます。2年代の実際の範囲で、全球の面積変化ではありません。
北極を中心とするランベルト正積方位図法。2000〜2023年の年末累積値を離散的に表示し、最後の年を長めに保持する20秒映像。対象はGlaMBIEの8地域(アラスカ、カナダ北極圏北部・南部、グリーンランド周縁、アイスランド、スヴァールバル、スカンジナビア、ロシア北極圏)全域で、厳密な北極圏の緯線で切り出した集計ではない。合計は地域値の単純和。グリーンランド氷床本体を除く。氷河分布はRGIの固定参照。短線は質量変化の絶対値に比例し、符号は数値で表示。輪郭の後退は再現していない。
緯度経度線は経度30度・緯度10度間隔。位置を読むための固定参照です。
緯度経度線を従来比110%の太さにし、50°N・60°N・70°N・80°Nを小さく表記。
破線は地域名とその参照位置を結ぶ引出線。緯度経度線は細い実線、数値下の短い実線は質量変化の大きさを示します。
出典
- WMO · State of Global Water Resources 2025, 17 September 2026
- USGS · Fifty-Year Record of Glacier Change (2009)
- GlaMBIE / WGMS · Regional annual mass change, Dataset 1.0.0
- USGS · Measuring South Cascade Glacier
- Norwegian Polar Institute · Research & Environmental Management Programmes
- GlaMBIE · Results and community estimate, 2000–2023
- Norwegian Polar Institute · Melting glaciers: lifeline or threat for Arctic fjords and coasts? (14 March 2024)
- US National Weather Service · August 2024 Mendenhall River Flooding
執筆者
SORAH Editorial
2026年10月8日



