
これまでの名畑は、これからも同じ気候にあるのか。コート・ド・ボーヌと背後の丘陵で、現在の畑の輪郭を固定し、育つ季節の気温を比べる。

これまでの名畑は、これからも同じ気候にあるのか。コート・ド・ボーヌと背後の丘陵で、現在の畑の輪郭を固定し、育つ季節の気温を比べる。
畑の名前に、場所の歴史がある
ボーヌ、ムルソー、コルトン、モンラッシェ。フランス東部のブルゴーニュでは、ワインの名前から土地の名前をたどることができる。コート・ド・ボーヌの斜面を歩くと、畑を隔てる道や石垣が、地図の輪郭を身近な風景に変える。この地方の「クリマ」は、土や斜面、栽培の経験を通じて識別されてきた、名前を持つブドウ畑の区画を指す。ユネスコが2015年に世界遺産へ登録した範囲には、コート・ド・ニュイとコート・ド・ボーヌの1,247のクリマが含まれる。 UNESCO
それほど場所に結び付いたワインだからこそ、気候変動は独特の問いを突きつける。畑の場所も名前も同じまま、そこで育つ季節の条件が変わったら、何を受け継ぎ、何を変えていくのだろう。

フランス・ムルソーの中心部南西にあるブドウ畑。2025年8月3日撮影。
固定した畑に、二つの未来を重ねる
今回の地図は、コート・ド・ボーヌと背後の丘陵に範囲を絞った。現在の生産資格区域を固定し、1981〜2010年と2041〜2070年の4〜10月平均気温を、同じ青から赤の尺度で比較する。淡いワイン色の一級、濃いワイン色の特級が、現在の資格区域を表す。対象範囲の現行特級区域に対応する気候を面積で加重すると、基準期の平均気温は約15.8°C。将来の5モデルの中央値は、低排出シナリオSSP1–2.6で約17.6°C、高排出シナリオSSP3–7.0で約18.3°Cになる。モデル間の幅は、それぞれ17.4〜18.6°C、18.0〜19.9°Cだ。SORAH集計・CHELSA v2.1
30年の平均的な条件を、約1kmの気候格子で比較する。同じ格子に重なる畑には共通の気温を当て、畑の位置と、その周辺を包む気候の変化を重ねて読む。
収穫の暦が残してきた変化
将来の色の変化を考える手がかりは、過去の記録にもある。Labbéらが整理したボーヌの収穫日記録では、1354〜1987年の平均は9月28日、1988〜2018年は9月15日だった。二つの期間の平均を比べると、収穫は13日早まっている。Labbé et al. (2019)収穫日には、果実の成熟に加え、作り手の判断や制度も関わる。同じ土地に長く残された記録は、栽培という仕事の暦と気候を重ねて読む手がかりになる。
温暖化は成熟を早め、酸味、糖分、香りの組み合わせにも関わる。INRAEが2024年に紹介した研究レビューは、その変化と適応の可能性を世界の産地で整理した。コート・ド・ボーヌでは、現在の畑に重なる気温の変化から、その土地で今後検討する栽培の工夫を考える入口が得られる。 INRAE・2024年研究レビュー

温度帯から、土地の条件へ
地図の別表示では、現行特級区域の基準期における気温分布の中央80%に当たる約15.55〜16.04°Cを、固定した参照帯としている。その範囲の色が将来どこに残るかを見ると、気温だけに注目した位置関係の変化がわかる。ワインの味には、気温とともに、地形や土の厚さ、水を保つ性質、品種、栽培方法が関わる。参照帯を手がかりに、似た温度条件の場所を探し、その土地固有の条件を調べる。そうした順序で、栽培の可能性を一つずつ検討できる。
同じ特級区域に対応する4〜10月の降水量は、基準期の約509mmに対し、将来の中央値は約479mmと468mm。季節の合計に、雨の降る時期や根の周囲に残る水を重ねて調べることで、ブドウが育つ水の条件をさらに詳しく考えられる。 気温・降水量の地域集計
場所を受け継ぐための選択
フランスの共同研究LACCAVEは、土壌の保全や植栽材料の選択などを、適応の手段として検討した。畑を守る判断は一つの技術で完結せず、生産者、研究者、産地制度を担う人々の間で組み立てる必要がある。INRAE・LACCAVEブルゴーニュの名畑で考えた問いは、世界に名だたるワイン産地にも広がる。次の世代が同じ産地の名を口にするとき、そこではどんな季節に、どんな工夫でブドウが育っているのか。それぞれの土地に根ざした味と文化を受け継ぐために、気候の変化と生産者の選択を、その産地の自然と歴史に重ねて考えたい。
データと表現
区域:INAO Délimitation Parcellaire des AOC Viticolesを公式Géoplateforme WFSから2026年10月12日に取得。16,698件を確認し、コート・ド・ボーヌの生産資格区域を抽出。植栽状況の評価は別途現地情報を要し、法的境界はINAO公式図面が基準です。Licence Ouverte 2.0。資格が重なる場所は上位資格を優先して重複を除去。取得時点の区域を固定して比較し、形状は約2mで簡略化。一級は淡いワイン色、特級は濃いワイン色で気温背景へ半透明に重ね、外枠を表示。地名は文字のみ、引き出し線は区域内の代表点に接続。細かな区画線・地域名や村名の色面・河川線は非表示です。
気候:CHELSA v2.1、30秒角(約1km)、CC0。基準期1981〜2010年、将来2041〜2070年、SSP1–2.6/SSP3–7.0。GFDL-ESM4、IPSL-CM6A-LR、MPI-ESM1-2-HR、MRI-ESM2-0、UKESM1-0-LLの5モデル。4〜10月の月平均気温を月日数で加重し、降水量は同期間の月量を合計。変換は気温raw×0.1−273.15、降水量raw×0.1。対象154ファイルの地域内有効値を確認済み。
将来地図は格子ごとの5モデル中央値。特級区域の比較値は、13格子との交差面積で各モデルを加重集計した後、中央値・最小・最大を算出。モデル幅は採用5モデルの最小〜最大です。簡略形状の参照面積は約1.931km²。気温の空間解像度は約1km格子に対応します。
温度参照帯は、基準期の面積加重経験分布10〜90%(15.551〜16.037°C)を事前に固定。将来の格子中央値がこの範囲に入る場所を示します。評価対象は4〜10月平均気温の一致。栽培適性・品質・格付けの評価や、霜・猛暑日・収穫日の分析には、それぞれ追加の条件とデータが必要です。
地形:IGN RGE ALTI標高サービスから約190×278m間隔で43,200点を抽出。25m間隔の等高線はこの標本から導出。表示精度はこの取得間隔に対応します。Licence Ouverte 2.0。全レイヤーで座標と表示範囲を共通化。フランス内の位置図はNatural Earth。
収穫日:Labbé et al. (2019)の公表本文にある2期間の平均を使用。対象は1354〜1987年と1988〜2018年の歴史記録です。
フランス・ムルソーの中心部南西にあるブドウ畑。2025年8月3日撮影。 Benjamin Smith / Wikimedia Commons · CC BY-SA 4.0 · Source. 比例縮小・JPEG圧縮のみ。
出典
- INAO · 地理情報 / geographical data
- INAO · 生産資格区域 / parcel eligibility dataset
- CHELSA v2.1 · climatologies
- CHELSA v2.1 · DOI
- IGN · RGE ALTI
- Labbé et al.2019 · Beaune harvest dates
- UNESCO · Climats of Burgundy
- 地域集計と方法 / reference aggregation
- INRAE / van Leeuwen et al.2024 · climate and wine
- INRAE · LACCAVE
執筆者
SORAH Editorial
2026年10月12日



