
火山の斜面に残された5期の記録から、陸の繁殖地と南大洋の食べ物を考える。
火山の斜面に、2種の暮らしが重なる
南大西洋のサウスサンドウィッチ諸島。その北端にあるザボドフスキー島では、火山の斜面が海へ落ち、岩の上にペンギンの営巣地が広がる。2026年10月、英国南極研究所(BAS)は、この島のヒゲペンギンで2011〜2025年の占有巣数が63%減ったという研究結果を発表した。遠い島を訪ねた調査が、南大洋の変化を陸上に残る記録から読み直している。 BAS · Penguin population collapse on volcanic island (7 October 2026)ここに重ねたのは、その研究に関連して公開された営巣地の輪郭だ。5期を通じて比較できる範囲にそろえると、ヒゲペンギンの面積は2011年の約63.6haから2025年の約18.5haへ、マカロニペンギンは約9.2haから約11.2haへ変わった。陸地の同じ場所を見続けることで、2種の占める空間の違いが現れる。 BAS · Mapping of higher predators on Zavodovski Island, 2010–2025

国際宇宙ステーションから見たザボドフスキー島。2008年1月27日撮影。 NASA / ISS Expedition 16 · Public domain — NASA · Source · 配布画像をそのまま使用(配布元でトリミング済み)。
巣のある場所と、食べ物のある海
ヒゲペンギンの名は、頭の下に走る細い黒い帯に由来する。海で主にオキアミや魚を捕らえ、繁殖期には陸の巣へ戻る。オーストラリア南極プログラムの解説では、卵を温める仕事を雌雄が交代で担う。繁殖地を支えるのは、巣を置く岩場と、そこから採餌に向かう海の両方である。 Australian Antarctic Program · Chinstrap penguin
サウスシェトランド諸島リビングストン島のヒゲペンギン。2008年3月13日撮影。 Gilad Rom · CC BY 2.0 · Source · 比例縮小・JPEG圧縮のみ。
黄色い冠羽を持つマカロニペンギンも、オキアミや魚を食べる。採餌に出る時間や距離は繁殖段階によって変わる。隣り合った営巣地に暮らしていても、海の使い方や季節の過ごし方には種ごとの条件がある。同じ海域の変化を、それぞれが異なる形で受け止める可能性を考える必要がある。 Australian Antarctic Program · Macaroni penguin

サウスジョージア島クーパー湾のマカロニペンギン。2011年1月19日撮影。 Liam Quinn · CC BY-SA 2.0 · Source · 加工なし。
5期を並べると、変化の途中が見える
2011年、2016年、2020〜2022年、2023年、2025年。間の記録を加えると、ヒゲペンギンの比較面積は約63.6、41.5、27.5、17.5、18.5haと移り変わる。2023年から2025年には小さな増加がある。最初と最後だけを見たときの大きな縮小と、直近の区間の動きを、同じ輪郭の上で一緒に確かめられる。 BAS · Mapping of higher predators on Zavodovski Island, 2010–2025マカロニペンギンの面積は、同じ順で約9.2、11.7、11.1、10.7、11.2haだった。2種を合算するだけでは、こうした異なる動きが埋もれてしまう。どちらの種が、斜面のどの部分を使うのか。地図は島全体の数値を、その場所で起きた空間の変化へ戻してくれる。
営巣地の輪郭は、鳥が繁殖に使う土地の広さを記録する。同じ面積の中にどれほどの巣があるかは、別に確かめる必要がある。面積の記録と占有巣の調査を組み合わせると、土地の使われ方と繁殖集団の規模を、それぞれの指標から考えられる。
観測の方法も時代とともに変わった。公開資料には人工衛星による撮影とドローン調査が含まれる。雲や調査範囲を確かめ、重ねて比較できる土地を選ぶことは、輪郭をきれいに描く前の大切な仕事である。離れた年の記録がそろうことで、次にどこを詳しく調べるかも具体的になる。 BAS · Mapping of higher predators on Zavodovski Island, 2010–2025
岩の上の変化を、海の食物網へ戻す
2026年の論文で研究者たちが主な要因として推測するのは、地域の温暖化に伴うオキアミの利用可能性の低下だ。島の2016年の噴火を含め、複数の説明を検討したうえで、長く続いたヒゲペンギンの減少を海の餌条件と結びつけている。これは営巣地の形からさらに踏み込み、追跡調査などを合わせて導かれた研究上の解釈である。 Ratcliffe et al. · Population declines and changes in community composition (2026)オキアミは植物プランクトンを食べ、ペンギン、魚、アザラシ、クジラなどに食べられる。海中の小さな生き物の分布や量は、多くの捕食者が食べ物を得る条件につながる。繁殖地の面積を見ていた目を海へ向けると、岩場の外に続く食物網が、この島の暮らしの一部として見えてくる。 Australian Antarctic Program · Antarctic food web
次に同じ斜面へ戻ったとき
繁殖地を守るという言葉には、巣がある陸を守ることと、親鳥が食べ物を得る海を理解することが重なる。ここで示した比較では、ヒゲペンギンの輪郭は大きく縮み、マカロニペンギンの輪郭は違う経過をたどった。2種を別々に記録し、同じ範囲へ戻して見ることで、変化を具体的な場所の問いとして持ち続けられる。
サウスジョージア島クーパー湾で同じ浜に集まるヒゲペンギンとマカロニペンギン。2016年1月11日撮影。 Andrew Shiva / Wikipedia · CC BY-SA 4.0 · Source · 比例縮小・JPEG圧縮のみ。
次の調査で同じ斜面に立ったとき、どこに巣が残り、どこに新しい営巣地ができているのか。その記録を、海へ出た親鳥の行動や餌の条件と合わせて読む。火山島の小さな輪郭は、陸と海の両方を調べるための出発点になる。
データと表現
BAS公開ポリゴンを、5期に共通する観測範囲で集計した営巣地面積。2011・2016・2025年の雲域と2023年の調査外を全期から除外した。2020〜2022年は複数撮影日の合成。単位はha、占有巣数や個体数の推定は別の指標である。本文冒頭の63%は原研究の占有巣数の結果、地図の面積変化は本作品の共通範囲集計として区別する。全島の種別個体数順位は面積だけでは評価しない。 BAS · Mapping of higher predators on Zavodovski Island, 2010–2025 Ratcliffe et al. · Population declines and changes in community composition (2026)地形はCopernicus GLO30の標高から作成した25m間隔の等高線。青はヒゲペンギン、黄色はマカロニペンギンを区別する。観測された5期の輪郭をクロスフェードで滑らかにつなぎ、切替中は比較する両時期と両方の面積を併記する。途中の表示は調査記録間の視覚的な切替として扱う。資料写真の場所と撮影日は各キャプションに記載した。
出典
- BAS · Penguin population collapse on volcanic island (7 October 2026)
- Ratcliffe, Dickens & Clucas (2026) · BAS · OGL v3
- Australian Antarctic Program · Chinstrap penguin
- Australian Antarctic Program · Macaroni penguin
- Ratcliffe et al. · Population declines and changes in community composition (2026)
- Australian Antarctic Program · Antarctic food web
- Data repository / layer definitions
- Copernicus DEM / licence
- BAS · Zavodovski expedition
執筆者
SORAH Editorial
2026年10月19日



