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ボゴンガの夜の旅 — 星が導く山への道

公開日 18/October/2026 · Nature

ボゴンガの夜の旅 — 星が導く山への道

SORAH Editorial 著

春は山へ、秋は繁殖地へ。ボゴンガの夜の旅を、星空の向きを変えた実験からたどる。

Data Scapeでデータを探索する

オーストラリア南東部では、春になるとボゴンガが夜空を移動し、暑い季節を過ごす山へ向かう。目指すのは、スノーウィー山地などの涼しい岩の隙間や洞窟。秋には繁殖地へ戻っていく。まだ訪れたことのない場所へ、小さな蛾はどうやって進めるのか。

2025年に発表された研究は、その道案内の一つが星空であることを実験で示した。星の見える向きを変えると、蛾が飛ぼうとする向きも変わる。夜空の光の配置が、生き物の進路を支えている。Dreyer et al., Nature(2025)

褐色の翅を閉じて樹皮にとまるボゴンガ

樹皮にとまるボゴンガ(Agrotis infusa)。資料日付:2000年9月1日。撮影地点の詳細は記載なし。 Entomology / CSIRO · 出典 · CC BY 3.0 · 加工なし。

夏を山で過ごす、季節の旅

ボゴンガは、ニューサウスウェールズ州やビクトリア州などの平原・丘陵と、オーストラリア・アルプスを行き来する。移動距離は長い場合で約1,000kmに及ぶ。山では岩の割れ目に密集し、夏眠と呼ばれる状態で暑い時期をやり過ごす。私たちが渡り鳥に思い浮かべるような季節の移動が、数cmの翅を持つ昆虫にもある。オーストラリア国立大学

同じ山を目指していても、出発する場所によって進む方角は変わる。春に山へ向かうときと、秋に繁殖地へ戻るときでも、必要な向きは異なる。季節と方角が組み合わさるところに、この蛾の移動の精妙さがある。

地上を固定し、空だけを回す

研究者が試したのは、飛行装置につないだ蛾に人工の星空を見せ、体の向きを測る方法だった。地磁気の影響を打ち消した環境で、自然な星空、180度回した星空、星をランダムに配置した空を比較した。取り上げた2018・2019年のデータは、ニューサウスウェールズ州アダミナビーでの春・秋の実験である。公開実験データ

自然な星空では、春の蛾は南寄り、秋の蛾は北寄りへ向かった。空を180度回すと集団の平均方向もほぼ反転し、星の配置を崩すと方向のまとまりが弱くなった。見えている光の量だけでなく、夜空の配置が方角を判断する手がかりになっている。地形の上で方位を見比べると、同じ場所にいる蛾が、空の条件によって違う向きを選ぶことがわかる。ルンド大学・研究紹介

山に届く蛾が、別の命を支える

この旅の終点には、蛾の到来を食物として受け取る生き物もいる。オーストラリアの高山の岩場に暮らすマウンテンピグミーポッサムは、その一つだ。オーストラリア政府は、ボゴンガなどの食物の減少を、この小さな有袋類への脅威として挙げている。平地から山へ移動する昆虫は、離れた場所の生態系へ栄養を運んでいる。DCCEEW・保全方針

巣材の中から顔をのぞかせる、丸い耳と大きな目のマウンテンピグミーポッサム

マウンテンピグミーポッサム(Burramys parvus)。オーストラリアン・レプタイル・パークでの飼育個体。ゴスフォード、2013年7月2日。 John Englart · 出典 · CC BY-SA 2.0 · 加工なし。

方角を保って飛ぶ能力を知ることは、山の避暑地だけでなく、そこへ至る夜の環境にも目を向けることにつながる。岩の隙間、繁殖地、そして星が見える空。ボゴンガの旅は、それらを季節の中で結び直している。春の山に蛾が届くとき、夜空の情報は地上の生き物の暮らしへとつながっていく。

データと表現

星空と地図: Nature Fig.3aの春・秋の実験刺激画像(Stellarium)を使用。回転条件は当該画像を180°回転。ランダム条件はFig.3bの秋の刺激例を表示。天空と地上は異なる座標・尺度で、北方向を対応させた合成。円形切抜き・拡大・透明度を調整。

対象: ボゴンガ(Agrotis infusa)。2018/2019年、春・秋の定位実験。

量と表現: 北0°・時計回り。点の方位=個体の平均方向、中心からの距離=r(0〜1)。白線はr重み付き平均ベクトル。

比較: 春 自然70/回転68/ランダム58、秋54/56/49。条件間の同一個体対応は未確定。

地図との対応: 実験地:Adaminaby(南緯36.040°、東経148.864°)。採集地:Mount Selwyn(南緯35.914°、東経148.444°)。線は係留実験の方位、長さは集中度 r。移動距離・野外の経路は未測定。

出典: Dreyer et al., Nature (2025) · Figshare v2 · CC BY 4.0。数値を再描画。

星空の出典・権利: Dreyer et al., Nature Fig.3、星空画像 Stellarium。CC BY 4.0。掲載パネルを切抜き・拡大・回転・透明度調整して合成。

地形・等高線: Geoscience Australia / CSIROのSRTM DEM-S(2000年観測、元解像度約30m)を使用。表示用格子は約200〜247m。共通の標高面をガウス平滑化(σ=3画素、約600〜741m)してから200m間隔で抽出。全ての等高線を同じ色・透明度・線幅で表示。25m簡略化、800m未満の短い線は省略。元DEMと元等高線を保存。 Geoscience Australia · © Commonwealth of Australia · CC BY 4.0 · SORAH derived contours.

線の描画: 尾根と谷を読みやすくするための地図表現上の総描。閉じた等高線は切れ目なく接続し、描画時に微小な角を丸める。陸地線は省略し、黒背景と論文の星空を維持。

飛行方位の表示: 全6条件の実測値が収まる共通尺度で、方位ベクトルを表示領域いっぱいに拡大。各線の矢印は実験で測った平均方位、長さは方向集中度 r(0〜1)。白線はr重み付き平均。表示拡大は地理的な移動距離への変換を伴わない。

映像: 20秒・単一ビュー。0〜4秒は自然空の春、4〜8秒は自然空の秋。8〜12秒で背景の星空を180°回転。12〜16秒は操作空の春、16〜20秒は操作空の秋。地形・尺度・実験地点を固定し、春秋は同じ画面で時間切替。切替時は方位をフェードし、実測の中間方位を生成しない。英語の時間軸。粒子の速さは演出。 白い200m等高線を全画面に表示し、実験地・採集地・北方向を付記。 映像の方位表示は全条件共通の倍率で画角の端近くまで拡大。星空の表示不透明度は90%。

出典

執筆者

SORAH Editorial

2026年10月18日

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