
ナイル川、コンゴ川、ザンベジ川。2025年、世界の大河の一部で流量が平年を下回った。支流まで広がる河川網をたどると、川の水が、食料や電力、生き物の居場所を支えていることが見えてくる。
ナイル川、コンゴ川、ザンベジ川。2025年、世界の大河の一部で流量が平年を下回った。支流まで広がる河川網をたどると、川の水が、食料や電力、生き物の居場所を支えていることが見えてくる。

青は2025年に年間流量が平年を下回った4流域の主流。青緑は支流を含む河川網と、地域資料を参照するアムダリヤ川・シルダリヤ川。青緑は流量評価を表さない。36%は世界の流域面積の割合。背景はNASAの2004年8月合成画像。アラル海は地域の位置表示。[1][2][3][5][17]
01 / 自然と暮らしを支える大河
地球図を近づいて見ると、一本の大河の周囲に、細い川が無数に枝分かれしている。ナイル川、コンゴ川、ザンベジ川、ブラジルのサンフランシスコ川。よく知る名前の背後には、雨を集める広い土地と、その水を受け取る支流がある。流域とは、この水が集まる土地のことだ。[16]その流れに沿って、畑が広がり、漁が営まれ、街が育ってきた。川は飲み水や食料を届けるだけでなく、人と物を運び、電気を生み出す。河口へ届く土砂はデルタを支え、川そのものが多くの生き物のすみかになる。川の水が少なくなるという変化は、こうした働きの変化でもある。[9]
今回の地球図では、支流を含む河川網の上に、2025年に年間流量が平年を下回った4つの流域の主流を青く重ねた。注目したいのは、その線の長さだけではない。一本の川が、どれほど広い場所の自然と暮らしを受け持っているか、ということだ。
02 / 2025年、どの流域で流れが弱まったのか
WMO(世界気象機関)が2026年9月17日に公表した評価によると、2025年に年間流量が平年を下回った流域は、世界の流域面積の36%を占めた。[1]※ 数字の読み方 36%は流域面積の割合で、水量の減少率ではありません。基準は1991〜2020年。気象観測を入力した13の全球水文モデルによる評価です。[1]
地域差は大きい。ナイル川、コンゴ川、ザンベジ川の流域は「平年を大きく下回る」とされ、サンフランシスコ川流域も「平年未満〜大幅未満」の地域に含まれた。一方、同じアフリカのニジェール川やオレンジ川の流域は平年を上回っている。大陸をひとつの色で塗ると、この違いが見えなくなる。[7]
※ 図の読み方 青い主流は、低流量と評価された流域の位置を示します。支流のすべてで同じ減少が観測されたことを意味しません。青緑の河川網は位置関係を示すもので、「平年並み」の評価ではありません。
地球を中央アジアへ向けると、アラル海へつながるアムダリヤ川とシルダリヤ川が見えてくる。SIC ICWCの地域年鑑によると、2025年にアムダリヤ川のデルタへ届いた水は22億9,100万m³で、前年より2億9,700万m³少なかった。シルダリヤ川にも、取水量やアラル海への流入量を記録した地域資料がある。[17]
※ 中央アジアの指標 ここでの数値は、水路・排水路からの供給も含むデルタへの総供給量です。河川全体の年間流量や1991〜2020年からの平年差とは異なります。両河川は地域資料を参照する対象として青緑で示し、個別のWMO低流量区分を確認できた4流域とは分けています。[17]

青は2025年に年間流量が平年を下回った4流域の主流。青緑は支流を含む河川網と、地域資料を参照するアムダリヤ川・シルダリヤ川。青緑は流量評価を表さない。36%は世界の流域面積の割合。背景はNASAの2004年8月合成画像。アラル海は地域の位置表示。[1][2][3][5][17]
03 / 川を流れる水と、大地に蓄えられる水
河川流量は、ある地点を一定時間に通過する水の量を指す。川の水位や、湖にたまっている水の量とは異なる。今回見ているのは、年間の流れが平年と比べて多かったか、少なかったかという評価だ。[16]地下水、湖、土壌、雪や氷には、別のかたちで水が蓄えられている。WMOは、その陸域の貯水量が2010年代半ば以降、長期的に減少していると報告している。流れる水と蓄えられた水は関係しているが、地球図の川の色だけから地下水や湖の減少量を読み取ることはできない。[1]
流量を変えるのは雨の量だけでもない。雪解け、地下水とのやり取り、取水や灌漑、ダムの運用、土地利用の変化も関わる。同じ「平年割れ」であっても、原因や影響を知るには、それぞれの流域に近づく必要がある。[16]

河川流量は単位時間あたりの量、貯水量は蓄えられた量。関係を説明する概念図で、形の大きさは測定値を表さない。[1][16]
04 / 食料、電力、生態系——川がもたらす恩恵と被害
その関係がよく見える場所のひとつが、ザンビアのカフエ・フラッツだ。ザンベジ川の支流、カフエ川に広がる氾濫原では、雨季に水があふれ、季節ごとに景色が変わる。湿地は水鳥や魚を育み、人々は漁業、農業、家畜の飼育を営む。水が引いたあとに残るラグーンは、魚の繁殖の場にもなる。水が増えたり引いたりすること自体が、生態系と暮らしを支えている。[13][14]
カフエ・フラッツの水辺。ザンビアのロチンバール国立公園から、2020年10月10日撮影。写真:Anayawa Nyambe / Wikimedia Commons。CC BY-SA 4.0、原画像の改変なし。[18][19]
川は電力にも姿を変える。ザンビアでは水力発電が発電設備容量の4分の3以上を占めるが、世界銀行によると、2024年の干ばつは利用できる電力を約3分の1減らした。影響を受けたのは家庭、小規模事業者、公共サービスだった。水の不足が電力の不足となり、川から離れた場所の日常にも届いた。[12]
※ 事例の対象年 ザンビアの電力不足は2024年に報告された事例です。主図が扱う2025年の流量評価から被害を推定したものではありません。[12]
水が多すぎる場合には、別の被害が生じる。WHOが2024年1月12日に伝えたコンゴ共和国の洪水では、33万6,000人以上が緊急の人道支援を必要とした。コンゴ川沿いなどで被害が大きく、34の医療施設と120の学校が損壊。農地も水につかった。水の量が増えることが、そのまま安全な飲み水や食料の確保につながるわけではない。[15]
湿地を潤す季節の増水と、住宅や医療施設を襲う洪水。発電を支える流れと、発電を難しくする渇水。川の影響は、水が多いか少ないかという一つの物差しでは捉えきれない。いつ、どこへ水が届くのか。そして、その土地で人や生き物が、どのように水を使っているのかが重要になる。
もう一度、地球図の細い支流を見てみる。川の向こうには、畑があり、漁場があり、電気を使う家や仕事場がある。大河の流量を知ることは、遠い自然の異変を数えるだけではない。その水に支えられた生活を、具体的な場所から考える入口になる。
データについて
主図の流量区分はWMOによる2025年の流域評価(1991〜2020年比、13の全球水文モデル)に基づきます。川の形状はData ScapeのHydroRIVERS v1(次数3以上・約258万線分)、川名と対象主流はNatural Earthを使用。回転に応じて可視半球の河川網を描画します。流域の評価を対象主流に対応させており、すべての支流の流量を個別に示す図ではありません。36%は平年未満の流域が占める面積割合です。背景はNASAの2004年8月合成画像で、2025年の水の状態は表しません。観測網には地域差があり、GRDCによるとアフリカとアジアの観測地点は評価に含まれた地点の約7%にとどまります。動画は北を上に、西から東への自転方向で地球を回す演出です。18秒で一周する一定速度の回転で、冒頭と終端がつながります。2025年の評価は固定で、流量の時系列変化や流速は示しません。[1][2][3][5][7] アムダリヤ・シルダリヤはSIC ICWCの地域資料に基づく注目河川で、個別のWMO流量区分は未確認。アラル海のマーカーは地域の位置であり、2025年の湖岸線ではありません。[17]出典
- WMO — 2025年の世界の水資源(2026年9月17日)
- HydroRIVERS v1 — 河川網・Strahler階層
- Natural Earth v5.1.2 — Data Scape採用の川名・主流形状
- NASA Earth Observatory — Blue Marble(採用背景・2004年8月)
- GRDC — 2025年水資源評価・観測網と地域差
- UNEP — Four reasons to protect rivers(河川の社会・生態的な価値)
- World Bank — Powering Zambia’s Transformation(2024年干ばつと電力供給)
- UNESCO — Kafue Flats / Man and the Biosphere(湿地と生業)
- Ramsar — Kafue Flats Information Sheet(ザンベジ流域の湿地)
- WHO — Supporting flood emergency response in Congo(2024年1月12日)
- USGS — Streamflow and the Water Cycle(流量と流域)
- SIC ICWC — Water Yearbook 2025 / Aral Sea Basin(BWO Amu Darya・BWO Syr Darya)
- Anayawa Nyambe — Lochinvar National Park / カフエ・フラッツの写真(2020-10-10)
- 写真の利用条件 — Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0
執筆者
SORAH Editorial
2026年9月25日



