
1982〜2021年の40年間、各年3月の雪の広がりが最小だった日へ。スイス・アルプスと周辺で、山の雪に蓄えられた水の変化を追う。
リフトに乗って山へ向かう人にとって、雪は滑るための地面だ。春を待つ下流の人にとっては、まだ流れ出していない水でもある。ツェルマット、ヴェルビエ、グリンデルワルト、ダボス、サンモリッツ。冬の旅先として知られる名前を同じ地図に置くと、スキー場の背後に広がる山々が、一つの水の貯蔵庫として見えてくる。
2026年10月、スイスの雪・雪崩研究所SLFは、2025年11月から2026年4月が観測記録で雪の少ない冬の上位10例に入ったと報告した。記録的な年のニュースは、冬が一つ終わるたびに更新される。その一方で、山に蓄えられる水の変化は、一度の少雪だけでは捉えきれない。[4]
白い面積の中に、どれだけの水があるか
山が白いことと、水が豊富に残っていることは、同じではない。薄く広がった雪も、谷を埋める厚い雪も、遠くから見れば白い。ここで地図に重ねるのは、雪をすべて融かしたときに相当する水の厚さ、積雪水量だ。100mmなら、その場所の1平方メートルに100リットル分の水があると読める。明るい場所ほど、雪の中に多くの水を抱えている。
同じ表示尺度で巡る40年。地図は選択日の積雪水量、グラフは対象地域の平均。
40年間の3月を年ごとに調べ、推定される雪の面積が最も小さかった日を一つずつ選んだ。1982年は3月30日、2021年は3月31日。地域平均の積雪水量は、それぞれ317mmと172mmだった。途中にはさらに水の少ない年もあり、2017年3月31日は97mm。山の冬は、一直線に同じ量ずつ変わるわけではない。
一つの冬と、40年の傾きを重ねる
グラフの折れ線は大きく上下する。その上に40個の年次値から求めた直線を置くと、積雪水量は10年あたり約10.4mmの減少方向を向く。読みたいのは、始点と終点だけの差ではなく、途中の豊雪年も少雪年も含めた並び方だ。雪が戻る冬があることと、長期の傾きが下を向くことは、同時に起こりうる。この二つを重ねると、冬の体感にも違う尺度が生まれる。旅先で見た一面の雪は、その年、その斜面の経験として確かなものだ。ただ、それだけでは山全体の水の蓄えや、何十年もの変化を代表できない。地図を年ごとに進める操作は、一枚の印象を長い時間の中に置き直すことでもある。

2016年9月3日、国際宇宙ステーションから撮影。山岳地形を伝える写真で、この図の3月の積雪水量を撮影したものではない。NASA / JSC / Expedition 48、ISS048-E-72253。 出典 / Source
スキー場の冬が、下流の春につながる
雪には、水を山にとどめておく時間がある。雨として降れば比較的早く流れ出す水が、雪になると融ける季節まで待つ。SLFが雪を水資源として調べるのは、この遅れが河川や湖、水力発電、農業と関わるからだ。白い斜面は、冬の景色であると同時に、流れ出す時期を待つ水でもある。[5]スキー場が必要とするのは、滑走できる場所に、必要な時期に雪があることだ。下流の暮らしが必要とするのは、必要な時期に使える水があること。その二つは山の雪を共有しながら、見ている季節と場所が違う。ある日の白い面積を増やすだけでは、この時間の違いは埋まらない。
雪を見送る前に、蓄えを読む
SLFの積雪水文予測は、山の雪を日々評価し、水の運用に役立つ情報へつなげている。現場で必要になるのは「雪が多かった」という記憶だけでなく、どこにどれだけ残り、いつ融けそうかという更新される見通しだ。[6]雪不足を考える入口は、滑れる冬を失うことへの実感かもしれない。そこから山全体へ視野を広げると、白さの中に、水を待つ地域の時間が見えてくる。40年の地図は、過ぎた冬の記録であるとともに、次の春へ何が引き継がれるのかを考えるための地図でもある。
データと読み方
出典:Michel et al.(2023)、SnowQMの論文改訂時公開版、Zenodo 7886773、CC BY 4.0。日次1km格子の積雪水量SWE。1962〜2021年の収録から1982〜2021年の40年間・各年3月31日分、計1,240日の元値と日付を取得・検査しました。2025年公開のSPASS更新版とは別の固定版です。単位の照合:元ファイルの属性にはmillimeterとありますが、著者公開コードの保存定義・作図軸・同梱データはm/mSWEで統一されています。論文中の0.5mm下限もコードでは0.0005。これらの一次資料に基づき、元値をm水当量として1,000倍しmmへ換算しました。属性との不整合は制作記録に保存しています。
選定方法:この長期版には雪被覆率SCFがないため、SWEが1mm以上の格子数×1km²を「推定雪面積」と定義し、各年3月1〜31日で最小の日を選びます。同値なら早い日を採用。表示する水量はその日の値で、最小水量の日や3月平均ではありません。閾値は薄い雪の判定に影響します。
全1,240日で有効な42,354格子・42,354km²に対象を固定。雪のない0も含めてSWEを平均し、欠測・モデル対象外は除外します。前版R05の250m・SCF面積・2016〜2025年とは定義と解像度が異なり、継ぎ足していません。今回の40年は全て同じモデル系列です。
水量の濃淡は25・100・250・500・800mmを境界にし、25mm未満は着色しません。表示用輪郭は簡略化し、集計には元の1km格子を使用。等高線は500m間隔。地名は集落中心で、個別スキー場の雪量を示すものではありません。
傾向線は40個の年次値を年に対して最小二乗法で直線回帰したもの。10年あたりの変化量を表示します。年々の変動や選定日の違いを含む記述的な傾向で、温暖化による因果の推定、冬全体の平均、将来予測ではありません。SWEを下流に届く給水量やスキー場の営業実績へ直接読み替えません。
Sources
執筆者
SORAH Editorial
2026年10月9日



