
通常水力と揚水。同じ水を使う、二つの役割を世界地図で見比べる。

水は低い方へ流れる。その動きを使って電気をつくる水力発電の地図に、水を高い方へ戻す設備が広がっている。揚水発電は、電気を使って水をくみ上げ、必要な時間に下へ流して再び発電する。水を通して、電気を使える時間を移す仕組みだ。米国エネルギー省の解説
2026年3月版のGEM公開地図を集計すると、稼働中の容量に占める揚水単独の区分は15.3%。建設中と計画中を合わせた容量では61.8%になる。いま動く設備と、これからの設備の構成は同じではない。計画のすべてが完成するわけではないが、水力に期待される役割を考える手がかりになる。
発電する力と、ためておける量
取得データに記録された稼働中の水力施設は4,927施設、合計1,278.94GW。そのうち揚水単独は196.12GWだ。GEMは通常水力、揚水、両方を備える施設を区分している。本図では通常水力を淡い青、揚水を濃いブルーで描き、通常水力と揚水を兼ねる施設を別色に保った。GEMの定義と対象範囲ここで比較しているMWやGWは、その瞬間にどれだけの電力を出せる設備かを示す容量である。どれだけ長く発電できるかを知るには、利用できる水の量や高低差、運転条件が必要になる。揚水の円が大きいことを、そのまま「ためられる電気が多い」と読むことはできない。
米国エネルギー省は揚水設備について、発電出力と蓄えられるエネルギーを別々の単位で説明している。この区別は、世界の設備を比べる際にも重要だ。容量の地図は、電気を出す力の所在を示す。貯蔵できる時間を比較する地図には、もう一組のデータが要る。揚水の運転と貯蔵
川に沿う設備、川から離れる貯蔵
通常水力には、貯水池の水を使うものも、川の流れを主に使うものもある。背景の細い河川をたどると、発電所が一つの地点だけでなく、上流から下流へ広がる水系の中に置かれていることがわかる。一方、揚水のすべてが同じように自然の河川とつながっているわけではない。自然水域と継続的につながる開放型に対し、閉鎖型はそのような接続を持たない上下の貯水池を使う。米国の国立研究所による比較では、閉鎖型は河川への影響を抑えられる可能性がある一方、地下水や地質などへの影響は個別に評価する必要があるとされた。川から離れることは、環境との関係がなくなることではない。2020年研究を紹介するDOEの解説
ダムの下流にも、水を使う時間がある
米国アリゾナ州、コロラド川から見たグレンキャニオン・ダム。2017年5月頃。Todd Wojtowicz / USGS、Public Domain。通常水力の現場写真であり、揚水設備の写真ではない。写真の出典
グレンキャニオン・ダムの下流では、流れと土砂の運ばれ方が変わった。USGSは、支流から砂が入った時期に合わせて放流を増やし、砂州を回復させる実験を調べてきた。砂州は川辺の生息環境やキャンプ地にもなる。放流の量だけでなく、いつ流すかが、下流の風景と利用に関わる。USGSの高流量実験
水の供給そのものも一定ではない。IEAの2025年半ばの分析では、中国の四川・雲南の干ばつとともに、同年上半期の中国の水力発電量が前年同期比2.9%減ったことが報告された。設備容量を増やすことと、必要なときに水があることは別の条件である。IEA Electricity Mid-Year Update 2025
濃いブルーの円は、電気を必要な時間へ移す設備を示す。その周囲の川は、上流の雨や雪、下流の生きものや暮らしへ続いている。発電と貯蔵を一枚の地図に並べると、電気の時間を調整する仕事と、水の時間を扱う仕事が同じ場所で重なって見える。
データと表現
設備はGEM Global Hydropower Tracker、2026年3月版。取得した7,023レコードのうち、稼働中4,927施設、1,278,940MW。揚水単独196,116MW÷全稼働容量=15.3%。建設・計画中は、construction・pre-construction・announcedを合算し、揚水単独689,830MW÷1,115,664MW=61.8%。通常+揚水の複合区分は揚水単独に足さない。計画は予測でも完成の約束でもない。主対象は30MW以上。前年版とは収録下限が異なるため、版間の件数差を新設数に読み替えない。世界集計では越境施設を一度だけ数える。円の面積はMWに比例し、MWh・貯水量・実発電量を表さない。
河川はHydroRIVERS v1.0のStrahler次数5以上。表示用の簡略化を行い、国境線を省き、Natural Earthの海岸線で陸地を示す。河川は固定の位置情報で、流量や各発電所との接続を推定したものではない。GEM:CC BY 4.0。HydroRIVERS:© World Wildlife Fund, Inc. (2006–2022)、Lehner & Grill (2013), doi:10.1002/hyp.9740、HydroSHEDSライセンスに従う組込派生表示。自然地理:Natural Earth、Public Domain。記事確認日:2026年10月10日。
出典
執筆者
SORAH Editorial
2026年10月10日



