
2021年9月から2023年秋へ。2022年2月24日の全面侵攻前の灯りを出発点に、ウクライナ全土の変化と、電気を届け続けるための仕事を見つめる。
NASAの補正月次夜間光から、北側の欠測や観測条件による表示の違いが目立つ月を除き、全面侵攻前の2021年9月と、2022・2023年の8・9・10月を選んだ。キーウからハルキウ、オデーサ、クリミア半島まで、同じ範囲・尺度で7時点をたどる。映像では各時点を2.8秒ずつ表示する。暦の時間が一定速度で進む映像ではない。2022〜2023年の全24か月の資料はData Scapeで確認できる。

図は全面侵攻前の2021年9月。映像はこの月と2022・2023年の8・9・10月、計7時点を各2.8秒で表示する19.6秒版。NASA VNP46A3.002。暗い紫は有効観測なし。
2022年春、首都の周辺で起きたこと
2022年2月24日、ロシアはウクライナへの全面侵攻を始めた。首都キーウの周辺も戦場となり、住宅地と生活を支える設備が被害を受けた。3月末にはロシア軍がキーウ北西のブチャから撤退し、占領下で起きた民間人への暴力も明らかになっていく。街に人が戻り始める時期にも、東部などでは戦闘が続いていた。[4]NASAが2022年6月に公表した画像では、3月に弱まったキーウ周辺の光が、5月には郊外の一部で戻っている。一方、東部では光の減少が続いたと報告されている。電力の復旧や住民の帰還が進んだ場所と、戦闘の影響が続く場所が、同じ国の中にあった。[2]

キーウ周辺、2022年3月と5月。同じ範囲のNASA公開画像を重ねています。黄色・橙色は強い夜間光、紫色は弱い夜間光。NASA Earth Observatory / Joshua Stevens; Black Marble data: Ranjay Shrestha, NASA GSFC。 出典
※ NASAが別途公開した春の比較画像です。冒頭の選定7時点の映像とは表示方法が異なります。暗さには停電のほか、避難や意図的な消灯も関わります。
前線を越えて、電力網が攻撃された
電力への攻撃は、地上戦が起きた場所にとどまらなかった。国連人権高等弁務官事務所は、2022年10月10日のロシア軍のミサイル攻撃で、8地域にわたり少なくとも12のエネルギー施設が損傷・破壊されたと報告した。発電所や送電線が傷つけば、前線から離れた都市でも水や暖房を動かす電気が届かなくなる。[5]IEAの2024年報告によると、2022〜2023年にウクライナの発電能力の約半分が、ロシア軍に占領されるか、破壊・損傷を受けた。ザポリージャ原子力発電所の占領だけでも、利用できる発電能力は6 GW減った。さらに2024年3〜5月の攻撃で、主に火力・水力の9 GWが失われたと同報告は記している。[3]
※ 月次画像は月内の観測を合成したものです。10月10日の攻撃直前・直後の比較ではありません。2024年の設備被害は映像の対象期間外です。
電力消費は、1年で約3割減った
実際に使われた電気は、どれほど減ったのか。国連統計部の公表値では、ウクライナの年間電力消費量は2021年の124.3 TWhから、2022年には85.3 TWhへ減少した。差は約39.1 TWh、31.4%にあたる。2023年は87.2 TWhへわずかに増えたものの、2021年を約29.9%下回った。[6]
国連統計部『Electricity Profiles 2023』のウクライナ表(p.213)、Consumption行から作図。年間値。124,341/85,290/87,156百万kWhをTWhへ換算。 出典 · CSV
消費の減少には、電気を届けられないことだけでなく、工場の操業縮小や人々の国外避難など、使う側の変化も重なる。IEAも産業需要の落ち込みや避難による家庭需要の減少を報告している。電力をつくる設備が失われた割合と、実際の消費量が減った割合は、それぞれ別の側面を伝える。[3]
※ 数字の読み方:消費量は最終消費とエネルギー産業の自家消費を含み、発電・熱供給施設の所内消費や送配電損失は別計上です。減少量すべてを停電による未供給電力とはみなせません。夜間光から算出した値ではありません。戦時下の国別統計と衛星画像の対象範囲も、完全に同一とは扱っていません。
電気を戻す仕事は、続いている
復旧は、壊れた設備を交換する作業だけではない。UNDPが取材した送電会社ウクルエネルゴの担当者、オレナ・ヴァスコフスカは、2022年の砲撃で送電線が切れた際、損傷した線を切り離して接地し、修理に入れる状態を整えたと語る。砲撃の合間には予備の送電線へ切り替え、利用者へ電気を送り続けようとした。修理班が安全に作業できるようにする判断も、灯りを戻す仕事の一部だった。[7]電力網の修復と並行して、予備電源の確保も進められた。2023年5月にはUSAIDのエネルギー安全保障事業から、ウクライナ鉄道へ105台のディーゼル発電機が供給された。送電網を直すことと、供給が途切れても必要な機能を維持すること。その両方を支える機材が、現地へ届けられていた。[8]

2023年5月16日、キーウ。USAIDの事業でウクライナ鉄道へ供給された105台のディーゼル発電機の一例。写真:U.S. Embassy Kyiv Ukraine/パブリックドメイン。 写真の出典・利用条件
月ごとに読むために
月次の合成画像には、その月の観測条件も現れる。季節や積雪、雲、夏の短い夜などの影響が残るため、隣り合う月の暗さを、そのまま停電の増減には読み替えられない。Data Scapeでは同じ月の2022年と2023年の差も確かめられる。有効観測のない場所を除き、現地の記録と重ねて変化を読む。灯りの向こうに、毎日を続ける仕事がある
地図に見える光の変化を、戦闘の記録、電力の統計、復旧に携わる人の言葉と重ねる。そうすると、ひとつの明るさの背後に、電気をつくり、送り、使うためのいくつもの仕事が見えてくる。光が戻ることと、暮らしが元に戻ることは同じではない。それでも、家の照明や駅の設備へ電気を届け直す仕事は、そこで日々を続けるための足場をつくっている。
データと表現
冒頭の2021年9月の6タイルと、2022〜2023年の全24か月・計144タイルを使用。計150ファイルをSHA-256・HDF5内部まで検証。品質0、観測4回以上、有限かつ非負の輝度・標準偏差、Suomi-NPPを使用。月別の有効範囲は変化し、比較矩形(21–42°E / 43–54°N)で有効観測がある面積は37.1〜99.4%です。国土の測定率ではありません。映像は15秒角の元格子を最近傍で描画し、尺度は全月で0–30 nW cm⁻² sr⁻¹の固定対数尺度。映像には2021年9月と2022・2023年の8・9・10月を採用し、7時点を各2.8秒、計19.6秒で表示。月間の補間はせず、暦上の間隔と表示時間は一致しません。除外月は北側の欠測・まだらな表示を確認して選び、明るさの増減を根拠に選別していません。全24か月はData Scapeに保持。Data Scapeは0.025°間隔の元セル標本を用い、同月差分は2023−2022の両年で有効なセルのみを比較します。
NASA VNP46A3.002 · https://doi.org/10.5067/VIIRS/VNP46A3.002
Boundaries: UN OCHA / © United Nations. Boundaries and designations do not imply official endorsement or acceptance by the United Nations.
出典
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NASA Earth Observatory · Tracking Night Lights in Ukraine, 30 June 2022
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IEA (2024) · Ukraine’s energy system under attack / CC BY 4.0
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OSCE Moscow Mechanism · Report on violations in Ukraine, 14 July 2022, pp.28, 38
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UNDP Ukraine · Bringing light to people against all odds: Olena Vaskovska
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U.S. Embassy Kyiv Ukraine · Generator delivery, 16 May 2023 / public domain
執筆者
SORAH Editorial
2026年10月7日



